前回に引き続き、裾バンドのネタで恐縮だけど、
今回はマジックテープにスポットライトを当てる。
1941年、スイス人電気技師のGeorge de Mestral(ジョルジュ・ド・メストラル)は、
ある日、愛犬を連れてアルプス登山に出かけた。帰って見ると、自分の服や犬の毛にゴボウの実が沢山くっついていた。
「なぜくっつくのだろう?」と、ふと不思議に思って顕微鏡で観察したところ、ゴボウの実から生えた無数の鉤(かぎ)が、
輪の形になった服の繊維や犬の毛としっかり絡まり合っていた。 これをヒントにジョルジュはフックとループの構造を持たせた2枚の布を密着させる「面ファスナー」を考案。実用化のために10年余を要し、1955(昭和30)年に本国で特許を取得し「ベルクロ」の名で商品化された。ちなみに「ベルクロ(Velcro)」とは“velvet(ベルベット)”と“crochet(鉤)”を合わせた造語である。
日本ではこの「面ファスナー」にいち早く着目したのがクラレで、「日本ベルクロ」という子会社を1960(昭和35)年4月に立ち上げ、早くも10月には「マジックテープ」の商標で工場出荷を開始した。
当初は期待していたほどの売り上げは得られなったが、1964(昭和39)年10月に開業した東海道新幹線のヘッドレストカバー留め具として、「マジックテープ」が採用された。これにより「マジックテープ」の認知度は上昇し始め、ビデオカメラのハンドグリップ、弁当箱カバー、サポーター、紐を使わないスニーカー、血圧計の巻き付けバンドなど、オフィス用品、スポーツ、レジャー用品、バック、医療分野、宇宙開発まで幅広い製品に使用されるに至り、今では日常生活になくてはならない物のひとつとなっている。
ところで、ゴボウの実の鉤に着目して面ファスナーが造られたように、生物の特性を模倣して製品化することを"Biomimetics"を呼ぶ。面ファスナーの他の例としては、カワセミが水に飛び込む時にほとんど水しぶきが立たないことに着目してデザインされた新幹線500系車両の先頭形状がある。これにより、新幹線走行時の騒音(特にトンネルを抜ける時の轟音)を軽減するのみならず、空力特性を高め、パワーの効率化を図ることができたらしい。
さて、そんな便利な「面ファスナー」ではあるが、その気になる点は、剥がす時の「ベリベリ」音である。
少し脇道に逸れるけど、このベリベリ音は、診療上は「ベルクロ音」とも呼ばれ、胸に当てた聴診器から「ベリベリッ」という音が呼吸に合わせて聞こえたら、それはあんまりよろしくないのだ。 それはさておき、このベリベリ音を少しでも弱くしようと、クラレさんも、フックの数や太さを変えたり、テープの生地の形状を変えたりして工夫しているが、残念ながら音を消すには至っていない。
そんな中、お友達の米軍特殊部隊の人から教えてもらったという、ベリベリ音の消し方を伝授する動画があるので、興味のある人は、視聴をどうぞ・・・。