くまもと自転車紀行

熊本市およびその周辺を走行した記録や装備・メンテなど、自転車にまつわることがらを中心としたブログです

漱石の旧居巡り

今月で没後100年となる夏目漱石。

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(熊大構内の漱石像)

漱石は、明治29年(1896)4月、第五高等学校の英語科講師(後に教授に昇格)として赴任してから、明治33年7月、英国留学のため帰京するまで、4年余りを熊本で暮らした。 その4年の間に6度も引っ越したのは有名な話。その中で、内坪井に現存する5番目の家と、水前寺成趣園の裏のジェーンズ邸の隣にある3番目の家は知っているが、他の家のことはよく知らない。 そこでネットで調べて、土曜の午前の仕事が終わってそれらを廻ることにした。 明治29年4月13日、漱石は上熊本駅(旧・池田駅)に降り立つ。

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駅前で人力車を拾い、京町を経由して、

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新坂からの眺めに「森の都だ!」と叫んだらしいが、今ではビルの方が目立つ。

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坂を下り、坪井立町を通って、迎えに来た同僚・菅虎雄の薬園町の家へ。

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ここでしばらく仮住まいをした。 「市中や君に飼はれて鳴く蛙」 第一の家「光琳寺の家」(明治29年5月~9月、家賃8円)は現在の銀座通りのホテルサンルートのところに立っていた。

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裏には森鴎外の「阿部一族」にも出てくる光琳寺があった。 「すずしさや裏は鉦うつ光琳寺」 6月9日この家で鏡子夫人と簡素な結婚式を挙げる。

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「衣更へて京より嫁を貰いけり」 ところが、すぐ隣が墓地とあって、鏡子が嫌がり、転居。 第二の家「合羽(がっぱ)町の家」(明治29年9月~30年7月、家賃13円)は現在の熊本市坪井にあった。

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明治10年の西南戦争で周辺の家の多くは焼け落ち、その影響で新築で部屋数も多かったものの、建物の造りは良くなく、下宿屋の様だったらしい。 その割には家賃は割高で、漱石はうっぷんばらしの句を作った。 「名月や十三円の家に住む」 ちなみに当時の漱石の月給は100円(高等官6等)。 第三の家「大江の家」(明治30年9月~31年4月、家賃7円50銭、現・新屋敷1丁目) 白川小学校の裏、大きなマンションの敷地内にあった。

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「傘(からかさ)を菊にさしたり新屋敷」 この家の家主・落合東郭氏は当時、著明な漢詩人であり、明治天皇の恩召にて宮中に召されて明治天皇、大正天皇、昭和天皇の三代にわたり侍従を務められという。 当時の旧居は水前寺成趣園の裏に引っ越し、保存されている。

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普段は建物内に入ることはできないが、震災後は、裏のジェーンズ邸が崩壊してしまったので、

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倒壊を免れたこの旧居の建物は開放されていて、ジェーンズ邸の分の展示物も含めて係の人が親切に説明してくれる。

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明治30年、結婚して初めての正月をこの家で迎え、鏡子はおせち料理を作った。しかし、下宿していた漱石の同僚や学生が食べ尽くしてしまい、年始客が来た時には出す料理がなくなってしまった。夫婦は新年早々大げんかをし、これに懲りた漱石は、次の年、年始客からの逃避を企てる。これが「草枕」のモデルとなった小天旅行というエピソード付き。 漱石も鏡子もこの家を気に入っていたが、家主の落合氏が帰熊したため、止む無く転居。 第四の家「井川淵町の家」(明治31年4月~9月、家賃10円)現・熊本市井川淵町1 「颯と打つ夜網の音や春の川」 白川に架かる明午橋の畔にあったが、戦災で焼失。現在明午橋の架け替え中の工事で付近に立ち寄るのは困難な状態。

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この家では鏡子がヒステリーを起こし、白川に入水自殺を図り、危ういところを投網の猟師に救われる。 そんな事もあったため、川に近いことを漱石が嫌い、転居。 第五の家「内坪井の家」(明治31年7月~33年3月でここが一番長い、家賃10円)現・熊本市内坪井町4 鏡子は、熊本で住んだ家では部屋数も多く、庭も広くこの家が一番良かったと言う。

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現在、「夏目漱石記念館」となっているが、震災の影響で現在建物内は立入禁止。

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庭の一部のみ開放されている。

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この家で長女・筆子が誕生。

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(筆子の産湯の井戸)

「安々と海鼠の如き子を生めり」 第六の家「北千反畑の家」(明治33年3月~7月20日、家賃不明)現・熊本市北千反畑町3 熊本での最後の家となったのは藤崎宮参道脇にある。

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「鶯も柳も青き住居かな」 「菜の花の隣ありけり竹の垣」 この家に3か月住んだ後、明治33年7月に東京へ。9月には英国留学へ旅立った。 漱石が熊本で住んだ家あるいはその跡地を廻って、それらが自分の日常の生活圏内にあることを再認識し、漱石の事がより身近に感じられた。 今回訪問した場所 今回、参考にしたサイト 「KKT・漱石と熊本」 「東京紅團・夏目漱石散歩(上)」 「東京紅團・夏目漱石散歩(中)」 「東京紅團・夏目漱石散歩(下)」 「GPA Talks・漱石の犬 獅子狗」